ステッカーのカット&ハーフカット

 今回はシール(ステッカーシート)のカットについてです。


 日々彫刻やカットについてなどお問い合わせ頂く中でたまに尋ねられて話し(回答)が長くなるのが、シール(ステッカー)のカットについてです。
 唐突に「シールのカット出来ますか?」「シールをカットする時のパラメーターはいくつですか?」と尋ねられても「出来る事は出来ますけど、、、」と「けど」が付き、そこから先の部分のお話を長々とすることになります。
 そこで今回はシール(ステッカー)カットについての「けど」の部分につて書いてみたいと思います。

 一口に「シール」「ステッカー」と言ってもその材料や材質は多種多様。
材料で言うと紙、PP、PET、塩ビ、ガラスフィルムなどなど。
 その上、シール本体が紙でもはく離紙(保護紙)はPPなど本体とはく離紙の素材が異なるもの、シール本体部分が紙の上にPPフィルムが重ねられていて2層になっていたり、シール本体とはく離紙すべてがPPやPETでも少しずつ材質やその特性が異なっているものなどなど。
 そして厚みも、シール本体はとても薄くはく離紙が分厚いもの、本体、はく離紙ともに薄いもの、逆に双方とも分厚いものなどあります。
 そして更に接着面に使用されている接着剤も様々なものがあり、接着剤自体もシート状のものがあるなど本当に様々です。
 
 なのでカットが行えることを前提にしたとしても「カットするパラメーター設定は?」という問いに明確な回答は出来ず、「パワーとスピードを低い設定値からはじめて丁度良いと思えるカットの出来具合になるまでテストカットを繰り返し行ってください」としか応えようがないのが正直なトコロです。

 あとは具体的な材料をお聞きして大凡で応えるくらいですが、それも結局は「大凡」であり的確ではないので、それを基準にテストカットを行って頂き、丁度良いパラメーターを探って頂くことになります。

 実のところこれは「シール」「ステッカー」に限らずアクリルやその他の材料も同じで、実際使用する板材の細かな材料配合によりカットの出来栄えが異なるので、一概に「このパラメーターが最適」というものはなく、個々の材料に適切なパラメーターはテストカットを行って見出すことが必要になります。
そして更に付け加えると、紙やその他厚みが薄いもの、ステッカー(シール)など複数層があるものは特に少しの出力の差でカットの具合(切れる、切れない)や見た目に差が出やすく、材料の反りや波打ち、加工台の歪み凹みから来る焦点のずれなどの影響も受けやすいです。
 なので、紙やステッカー(シール)をカットする時はその他の材料をカットする時以上に焦点のずれがないかを確認し、出力も実際に加工を行う材料に合わせた微調整が必要になります。

 今回は一例として市販されている手作り用ステッカーシートを使用してのカットを下↓で説明しますが、あくまで「一例」ですので、パラメーターは実際に使用するシール(ステッカー)に合わせて設定を行ってください。

 まずはデータから。


 今回はインクジェットプリンターで印刷する用のデータ(上写真 右)とカット用のデータ(上写真 左)をA4サイズで作成し、四隅にカメラオプション読み取り用の黒丸(レジストリマーク)を配置しました。
ステッカーシートのカットにカメラオプションは必ずしも必要ではありませんが、今回は動画で合わせて紹介します。
ちなみにレジストリマークはφ4mmです。

●使用レーザー機その他
・Speedy300 60W
・2.0inchレンズ
・細口コーン
・カメラオプション

●用意するもの
・ステッカーシート(市販品)
家庭用のインクジェットプリンターで印刷後、ステッカーシートのパッケージ記載の説明書通りにステッカーを作成しました。

●パラメーター
DPI:500
ハーフカット/パワー 17 スピード 2.5 PPI 20000 発振調整30 カット回数1回
カット/パワー25 スピード2.5 PPI20000 発振調整30 カット回数1回

 今回はデザインの都合上、外枠をカット(ステッカーシート本体とはく離紙をすべて切る)とイラスト部分をハーフカット(ステッカーシート本体のみを切り、はく離紙は残す)にしました。
 ステッカーシート(シール)ははく離紙まですべて切ってしまうとはく離紙から剥がして貼る時に剥し辛いので、ハーフカットがお薦めです。




◆動画について
・レーザー機稼働中は絶対に目を離さないでください。
・撮影用にレーザー機の蓋を開けて加工を行っています。実際に加工する際は必ず蓋を閉じて行ってください。

・今回の動画ではカメラオプションを使用していますが、シール(ステッカー)のカットに必ずしもカメラは必要ではありません。
カメラオプションの説明はこちら↓
ジョブコントロール ビジョン ~製品案内とデータ作成~(2016.01.19更新)
・動画での加工速度は等速です(編集で倍速等にはしていません)。
これの説明は下方↓「●今回のステッカーシートの素材とパラメーター設定について」にて。

●ちなみにカットを行う素材について
紙:大抵焦げます。レーザーでのカットは火で焼いて切る状態のため、カット断面とその周囲が茶色もしくは黒っぽく焦げます。
但し、トレーシングペーパーなど焦げないもしくは焦げが目立たない紙もありますので、紙をカットする場合は紙の種類を選ぶもしくは焦げ色が付いても目立たない紙色のものを使用することをお薦めします。

PC ポリカーボネート:黄変(黄色に変色)します。カット断面が溶ける、溶着(カットした後再びくっつく)する他、断面にバリ(ザラザラ、ボコボコ感)が出来ます。レーザー加工には不向きです。

PP ポリプロピレン:黄変しない、もしくはしても目立たない程度。カットは切れがよく、カット断面はエッジが出来ず丸みを帯びたふくらみが出来ます。
押切りの断面(エッジの有る平らな断面)を希望する場合は不向きですが、造形で使用するのであれば断面がなめらかなので加工後ケガしにくく扱いやすいです。

PE ポリエチレン:黄変しない、もしくは少しする程度。シートの厚みが増すにつれ断面に少しバリ(ザラザラ、ボコボコ感)を感じるようになります。薄いフィルムでしたら目立たない程度です。

PET ポリエチレンテレフタレート:黄変しません。シートの厚みが増すにつれ断面に少しバリ(ザラザラ、ボコボコ感)を感じるようになることがあります。薄いフィルムでしたら目立たない程度です。

ガラスフィルム:本来ガラスはカット出来ません(彫刻も極浅くキズが付く程度)が携帯電話の保護フィルム程度の厚みであればカット可能です。

●今回のステッカーシートの素材とパラメーター設定について
今回使用したステッカーシートは
保護用フィルム(ポリエステル、0.07mm)+印刷用フィルム(ポリエステル+インクジェット専用塗工、0.10mm)+はく離紙(ポリエステル、0.05mm)の本体2層、はく離紙1層 計3層のシート。接着剤については書かれていません。

製品の説明書きには「ポリエステル※」と表記されていますがPETではないのか接着剤が関係しているのか、レーザーを照射するとカット部分が溶けてバリが出来たり切断面が黒っぽく焦げるため、出来るだけ目立たなくするためにテストを繰り返した結果、あえてパワーとスピードを上げての加工に至りました。



 上写真 左/今回紹介したパラメーターでカットしたもの。
上写真 右/今回紹介したパラメーターよりもパワー、スピードともに低く設定しカットしたもの。
赤矢印部分のカットしたスジが左は殆ど見えませんが、右は黒っぽくなって見えています。
 このスジは黒っぽく焦げている他、溶けもあり触ると少し引っかかり(バリ)を感じる状態になっています。


 ちなみに今回紹介したステッカーのカットではステッカーに使用されている材料の加減でパワーとスピードを上げて加工したので一概にそうとは言い切れませんが、通常レーザー機でカットを行う場合、カット内容(デザイン)が細かければ細かいほどパワーとスピードを低く設定した方が仕上がりの見た目が良くなります。
しかし、だからと言ってあまり下げ過ぎると出来上がりまでにとても時間がかかったり、正常に動いていても止まっているように見えて「故障!?」と勘違いすることにも繋がりますので「ほどほどに」お願いします(^^b。


◆まとめ
 カットを行ったものに製品としての質を求める場合は、事前にその材料を熟知した上でテストを繰り返し、最適なカットのパラメーターを見極める必要があります。


※ポリエステルはPET、PBT、PENなどの総称です。詳しくは樹脂プラスチックを紹介しているサイト等でご確認ください。






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